トップシークレット☆ ~お嬢さま会長は新米秘書に初恋をささげる~

トップシークレット☆ ~お嬢さま会長は新米秘書に初恋をささげる~

last updateآخر تحديث : 2025-02-28
بواسطة:  日暮ミミ♪مكتمل
لغة: Japanese
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大財閥〈篠沢(しのざわ)グループ〉の先代会長だった父の急死を機に、17歳でその後継者となった一人娘の絢乃(あやの)。 そんな彼女を献身的に支えるのは、8歳年上の秘書・桐島(きりしま)貢(みつぐ)。彼は自身をパワハラから救ってくれた絢乃に好意を抱き、その恩返しに秘書となったのだった。 絢乃もまた桐島に初めての恋をしていたが、自分の立場や世間の注目が彼に集まってしまうことを危惧して、その恋心を内に秘めていた。 ところがある日の帰宅時、桐島の車の中で彼にキスをされたことにより、絢乃は彼の自分への秘めた想いに気づいてしまう──。 初恋に揺れ動くキュートなお嬢さま会長と、年上ポンコツ秘書とのラブストーリー。

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الفصل الأول

プロローグ

 ――「初恋は実らない」なんて、一体誰が言い出したんだろう? もし初めて恋に落ちた相手が運命の人なら、百パーセント実らないとは限らないのに。

 実際、わたしがそうだった。生まれて初めて恋をした相手が運命の人になったのだ。

 わたしの名前は篠沢(しのざわ)(あや)()。現在まだ十九歳という若さながら、日本屈指の大財閥〈篠沢グループ〉の会長兼CEOである。

 そして、わたしが初めて恋に落ちた相手は桐島(きりしま)(みつぐ)。わたしより八歳年上で、会長秘書兼わたしの個人秘書でもある男性だ。

 彼との出会いは今から二十ヶ月前。先代会長だった父・篠沢源一(げんいち)の四十五歳の誕生日だった。

 わたしと彼との間には年齢差や経済格差、身分の差など様々な障壁があったけれど、それらを乗り越えて無事に結ばれた。わたしの初恋は見事に実ったのだ。

 わたしは今、彼が初恋の相手で本当によかったと心から思っている。彼と一緒でなければ、父を早くに亡くした悲しみを乗り越えることも、現役高校生として大きな組織の(かじ)取りをすることもできなかっただろうから。

 そして今日この日、わたしは愛しいこの男性(ひと)と新たな旅立ちの時を迎えようとしている――。

 ――ここは結婚式場。わたしはベアトップのデザインの真っ白なウェディングドレスに身を包んで、白いタキシードの上下にブルーのアスコットタイを結んだ彼と、花嫁の控え室で向き合っている。

「貢、わたしたち、やっとここまで辿り着いたね」

「ええ。今日までに色々なことがありましたけど、今日という日を無事に迎えられてよかったです」

「ホントに色んなことがあったね。わたしがストーカー男と対決したり、その前に貴方に不意討ちでキスされたり?」

「あれは……その、暴走してしまったというか。すみません。でも、あのおかげもあって僕たち、付き合い始められたようなものですから」

「うん……まぁね」

 思い出話は尽きないけれど、わたしたちにとっていちばん忘れられない出来事はやっぱり父を亡くしたことだ。あの悲しい出来事をこの人と共有できたおかげで、わたしはあれから泣くことがなくなったのだ。

「そういえば絢乃さん、お義父(とう)さまのご葬儀の後、泣かれなくなりましたよね。強くなられたというか」

「それは、貴方っていう心強い秘書がついてくれたからだよ。まあ、忙しすぎて泣くヒマもなかったからっていうのもあるけどね」

 大企業のトップとして、強くありたいとわたし自身が頑張ってきたから。でも背伸びはせず、時には周囲の人たちにも助けてもらいながら、わたしは経営者としても今日まで逞しく成長してこられたと思う。

「貴方と出会ったあの日は、今日みたいな日を迎えられるなんて夢にも思ってなかったけど」

「そうですね……。僕も多分、予想できてなかったと思います」

 それは一年と八ヶ月前。わたしと彼が、会長令嬢とひとりの社員として出会った夜のことだった――。

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プロローグ
 ――「初恋は実らない」なんて、一体誰が言い出したんだろう? もし初めて恋に落ちた相手が運命の人なら、百パーセント実らないとは限らないのに。 実際、わたしがそうだった。生まれて初めて恋をした相手が運命の人になったのだ。 わたしの名前は篠沢(しのざわ)絢(あや)乃(の)。現在まだ十九歳という若さながら、日本屈指の大財閥〈篠沢グループ〉の会長兼CEOである。 そして、わたしが初めて恋に落ちた相手は桐島(きりしま)貢(みつぐ)。わたしより八歳年上で、会長秘書兼わたしの個人秘書でもある男性だ。 彼との出会いは今から二十ヶ月前。先代会長だった父・篠沢源一(げんいち)の四十五歳の誕生日だった。 わたしと彼との間には年齢差や経済格差、身分の差など様々な障壁があったけれど、それらを乗り越えて無事に結ばれた。わたしの初恋は見事に実ったのだ。 わたしは今、彼が初恋の相手で本当によかったと心から思っている。彼と一緒でなければ、父を早くに亡くした悲しみを乗り越えることも、現役高校生として大きな組織の舵(かじ)取りをすることもできなかっただろうから。 そして今日この日、わたしは愛しいこの男性(ひと)と新たな旅立ちの時を迎えようとしている――。  ――ここは結婚式場。わたしはベアトップのデザインの真っ白なウェディングドレスに身を包んで、白いタキシードの上下にブルーのアスコットタイを結んだ彼と、花嫁の控え室で向き合っている。「貢、わたしたち、やっとここまで辿り着いたね」「ええ。今日までに色々なことがありましたけど、今日という日を無事に迎えられてよかったです」「ホントに色んなことがあったね。わたしがストーカー男と対決したり、その前に貴方に不意討ちでキスされたり?」「あれは……その、暴走してしまったというか。すみません。でも、あのおかげもあって僕たち、付き合い始められたようなものですから」「うん……まぁね」 思い出話は尽きないけれど、わたしたちにとっていちばん忘れられない出来事はやっぱり父を亡くしたことだ。あの悲しい出来事をこの人と共有できたおかげで、わたしはあれから泣くことがなくなったのだ。「そういえば絢乃さん、お義父(とう)さまのご葬儀の後、泣かれなくなりましたよね。強くなられたというか」「それは、貴方っていう心強い秘書がついてくれたからだよ。まあ、忙しすぎて
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父の誕生日 PEGE1
 ――わたしが彼と初めて出会ったのは、二年前の十月半ば。グループの本部・篠沢商事本社の大ホールで父の誕生日パーティーが開かれていた夜のことだった。 父の家族として、母の加奈子(かなこ)とともに出席していたわたしは突然姿が見えなくなっていた父を探して会場内を歩き回っていた。やたら裾が広がってジャマになる桜色のミモレ丈のドレスに、歩きにくいハイヒールのパンプスでドレスアップして。 父はその数日前から体調を崩し、体重もかなり落ちていたけれど、「自分の誕生祝いの場に出ないわけにはいかないだろう」と無理をおして出席していた。「どこかで具合悪くなって、ひとりで倒れてたりしないかな……。なんか心配」 一度立ち止まり、辺(あた)りをキョロキョロと見回したその時だった。貢がその会場にいることに気づいたのは。 彼が明らかに会場内で浮いているなと感じたのは、彼ひとりだけが(わたしを除いて)ものすごく若かったから。着ていたのはグレーのスーツだったけれど、まだなじんでいない感じが見て取れたのだ。多分、入社してまだ五年と経っていないんじゃないかな、とわたしには推測できた。 身長は百八十センチあるかないかくらい。スラリと痩(や)せているけれど、貧弱というわけでもなく、程よくガッシリとした体型。そして、顔立ちはなかなかに整っている。間違いなく〝イケメン〟のカテゴリーには入るだろう。何より、優しそうな目元にわたしは惹(ひ)かれた。 それともう一つ、彼が周りの人たちに対してあまりにも腰が低かったから、というのもわたしが彼に注目した理由だった。この日招待されていたのはグループ企業の管理職以上の人たちばかりだったけれど、彼が役職(ポスト)に就(つ)くには若すぎたし、そもそもウチのグループに二十代の管理職がいたなんて話、わたしは父から一度も聞かされたことがなかった。「もしかしてあの人、誰か他の招待客の代理で来てるのかな……?」 ――と、思いがけず彼とわたしの目線が合った気がした。 あまりにもジロジロと凝(ぎょう)視(し)しすぎていたかも、と少し気まずく思い、それをごまかそうとこちらから笑顔で会(え)釈(しゃく)すると、彼も笑顔でお辞儀をしてくれた。 ……なんて律儀(りちぎ)な人。こんな年下の小娘に丁寧に頭を下げるなんて。――彼に対するわたしの第一印象はこれで、気がついたら彼のことが気
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父の誕生日 PEGE2
「――あっ、いけない! パパを探してる途中だったんだ!」 わたしはハッと我に返り、彼のことをもっと見ていたいという誘惑を頭の中から追い払い、再び広い会場内を早歩きで移動し始めたのだけれど。その時、母が貢と何か話している光景がわたしの目に飛び込んできた。 母は楽しそうに彼をからかっているように見え、それに対して彼は何だか恐縮している様子で、母にペコペコと頭を下げているようだった。「ママ、あの人と一体、どんな話をしてるんだろう……?」 二人の様子も少し気になったけれど、その時の優先順位は父を探すことの方が上だったので、その疑問はとりあえず頭の隅っこへと追いやっておくことにした。「――あっ、いた! パパー!」 その少し後、わたしはバーカウンターにもたれかかっている父の姿を見つけた。「絢乃? どうしたんだ、そんなに血相かえて」「どうしたんだ、じゃないでしょ? パパのことが心配だったの!」 そう言いながらわたしがカウンターの上にチラッと目を遣れば、そこにはウィスキーの水割りが入ったグラスが。「お酒……飲んでたの? ママに止められてるのに」 咎(とが)めるわたしに、父は困ったような表情を浮かべてこう言った。「心配するな。これでまだ一杯目だから。誕生日なんだから、これくらい許してくれよ、な? 頼むから」 いい歳をしてダダっ子のような父に、わたしは思わず吹き出してしまった。これでオフィスにいる時には、堂々たるボスの風格を湛(たた)えていたのだ。そんな父のギャップを見られるのは、家族であるわたしと母だけの特権だったかもしれない。「仕方ないなぁ……。じゃあ、その一杯だけでやめとこうね? ママもそれくらいなら許してくれると思うから」「ああ、分かってる。すまないな。絢乃もいつの間にか、こんなに大人になってたんだなぁ」「……パパ、わたしまだ高校二年生だよ?」 どこか遠くを見るような目をして言った父に、わたしはそうツッコんだ。けれど、多分父が言いたかったのはそういうことじゃなかったのだ。 父親にお説教ができるくらい、わたしが成長したと言いたかったのだと思う。 ――わたしは初等部から、八王子(はちおうじ)市にある私立茗桜(めいおう)女子学院に通っていた。 女子校に入ったのは両親の意向では決してなく、わたし自身の意思からだった。「制服が可愛いから」というの
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父の誕生日 PEGE3
 父も母も、わたしの教育に関しては厳格(げんかく)でなく、どちらかといえば「お嬢さま=(イコール)箱入り娘」という考え方こそ時代遅れだと思っていたようだ。わたしには世間一般の常識などもちゃんと知ったうえで、大人になってほしいという教育方針だったのだろう。 その証拠に、両親はどんな時にもわたしの意思をキチンと尊重してくれて、わたしがやりたいと思ったことには何でもチャレンジさせてくれた。習いごとに関してもそれは同じで、父や母から強要されたことはなく、わたしが自分から「習いたい」と言ったことをさせてくれていた感じだった。 だからわたしは、初等部の頃からずっと電車通学だったし、放課後には友だちとショッピングを楽しんだり、カフェでお茶したりといったことも禁止されなくて、のびのびと自由度の高い学校生活を送ることができたのだと、両親には今でも感謝している。 ――それはさておき。「あら、あなた。こんなところにいたのね。……まあ! お酒なんか飲んで! ダメって言ったでしょう⁉」 父と二人で楽しく談笑していると、そこへ母がやってきて、父の飲酒に目くじらを立て始めた。「体調が悪いのに飲酒なんて何を考えているの」「心配している家族の気持ちも考えて」と、まるで母親に叱られる子供みたいに母から叱責されている父が、わたしはだんだんかわいそうになってきた。「ママ、そんなに怒ったらパパがかわいそうだよ。今日はお誕生日なんだし、それくらいわたしに免じて大目に見てあげて!」 自分も父の飲酒を咎めていたことなんか棚に上げて、わたしは父の味方についた。妻と娘、両方から集中砲火を浴びせられたら逃げ場を失ってしまうからだ。ましてや父は篠沢家の入り婿で、立場が弱かったから。「ね? ママ、お願い!」 手を合わせて懇願(こんがん)したわたしに、母はやれやれ、と肩をすくめて白旗を揚げた。父もそうだったけれど、母も何だかんだ言ってわたしにめっぽう甘いのだ。「…………しょうがないわねぇ。ここは絢乃に免じて目をつぶってあげる。ただし、その一杯だけにしてね?」「分かったよ。ありがとう、加奈子。君にも心配をかけて申し訳ない」 父は許可してくれた母にお礼とお詫(わ)びを言って、チビチビとクラスを傾(かたむ)けた。母はどうやら娘のわたしにだけでなく、夫である父にも甘かったらしい。 ――結婚前、篠沢商事の営
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父の誕生日 PEGE4
 父が倒れたのは、それからすぐ後のことだった。突然ひどい目眩(めまい)に襲われ、立ち上がれなくなってしまったのだ。 わたしと母が驚いて呼びかけると、父はどう聞いても大丈夫じゃないでしょうと言いたくなるような声で「大丈夫だ」と言った。「〝大丈夫〟なわけないでしょ⁉ 顔色だって悪いのに」 わたしはそんな父を𠮟りつけた。父の体調がすぐれないのは誰が見ても明らかで、もうパーティーどころではないだろうとわたしも思った。というか、最初から無理をして出るべきではなかったのだ。「パパ……、今日はもう帰って休んだら? そんな状態じゃ、もうパーティーどころじゃないでしょ?」「そうね、私も絢乃の意見に賛成。あなた、帰りましょう? すぐに迎えを呼ぶわ」「……ああ、そうだな。申し訳ないが、そうさせてもらうことにするよ」 母は家で待機していたわが家の専属運転手に電話をかけて迎えを頼むと、わたしにも頼みごとをした。父が途中でいなくなると、会場にいる人たちが混乱すると思う。だから父の代理として会場に残り、頃合いを見て閉会の挨拶をしてほしい、と。「うん、分かった。任せて。ママ、パパのことよろしくね」 わたしは母の頼みごとを二つ返事で快諾(かいだく)した。責任重大だったけれど、こうなったらもうやるしかない、と腹を括(くく)った。 ――それから十数分後に運転手の寺(てら)田(だ)さんが到着し、母とともに父の体を支えて会場を後にした。多分、彼が運転してきた黒塗りのセンチュリーはビルの地下駐車場に止めてあったのだろう。「お嬢さまは一緒に帰らないのか」と彼が不思議そうに訊ねたので、母から頼まれたことを話すと納得してくれた。 その五分後にセンチュリーが夜の丸ノ内(まるのうち)の街に紛れていくのを、わたしはホールのガラス窓越しに眺めていた。 その後はやっぱり、父の具合を心配する人たちが押しかけてきて、わたしはその対応に追われた。それも落ち着いた頃、わたしはようやく自分がいたテーブルに戻ろうとしたのだけれど……。父が倒れたショックからか、対応疲れからか軽い目眩を起こしてしまった。「――絢乃さん、大丈夫ですか⁉」 倒れそうになったわたしを支えてくれたのは、慌てて飛んできた貢だった。――あ、この人はさっきの……。わたしの名前を知っていたことは不思議だったけれど、彼が助けてくれたのが偶然
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父の誕生日 PEGE5
「あ……、ありがとう。大丈夫だよ、ちょっとクラッときただけ」「よかった。少し休まれた方がいいんじゃないですか? 絢乃さん、何か召し上がりました?」「うん。パパがあんなことになる前に、けっこういっぱい食べてたから」 わたしがそう答えると、彼はホッとしたように「そうですか」と笑いかけてくれた。 父が倒れたばかりだというのに、わたしまで倒れていられなかった。わたしには母から託された任務(ミッション)があったし、初対面の彼にも心配をかけるわけにはいかなかったから。「――じゃあ、絢乃さんはここで座ってお待ちください。何か甘いものと飲み物をもらってきます」「えっ、いいの? 何か申し訳ないなぁ」 出会ったばかりの、しかも助けてもらったばかりの彼にそこまで気を遣わせてしまい、わたしはちょっと罪悪感をおぼえたけれど。彼はやんわりと首を横に振った。「いいんです。僕も食べたいので、そのついでですから。――飲み物は何になさいますか?」「そう? ありがとう。じゃあ……オレンジジュースにしようかな」「分かりました」 彼は頷(うなず)き、ビュッフェコーナーへいそいそと歩いていった。「あの人、スイーツ男子なんだ……。なんか可愛いかも」 その後ろ姿を眺めながら、わたしは心がほっこりするのを感じた。倒れかけたのを支えてもらった時には、心臓がドキンと脈打つのを感じたはずなのに。「そういえばわたし、まだ彼の名前聞いてない」 もしかしたら、この夜限りの出会いだったかもしれないのに、名前を知りたくなったのはなぜだろう? ……きっとこの時すでに、わたしは彼との縁を感じていたのだろう。 ――父の状態が心配だったわたしは、彼を待っている間に母のスマホにLINEでメッセージを送った。〈もう家に着いた? パパの様子はどう?〉 すぐに既読はついたけれど、なかなか返事は来なかったので余計に心配が募(つの)った。「――お待たせしました! 絢乃さん、どうぞ」 それからしばらくして、トレーを抱えた貢がテーブルに戻ってきた。二人分のデザート皿とドリンクを運ぶのに、会場にあったトレーを借りたのだろう。「ありがとう。――あ、そういえば貴方(あなた)の名前は……」 小ぶりなケーキ四種盛りのお皿とオレンジジュースのグラスを受け取ったわたしは、改めて彼に名前を訊ねた。「ああ、そうでしたね。申し
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父の誕生日 PEGE6
「桐島さんっていうんだ。代理だったんだね。そんなの、イヤなら断ればよかったのに」「いえ、本当は断るつもりだったんですけど。課長の強引さに押し負けて引き受けざるを得なかったというか……。他に引き受けてくれる人もいませんでしたし」 彼は困ったような表情で、代理出席の裏側を打ち明けた。……確かに彼はお人好(よ)しに見えるけれど(そして実際に〝ド〟がつくほどのお人好しだったけど)、それをいいことに言うことを聞かせる上司って、これじゃまるで……。「桐島さん、それってパワハラって言わない?」「そう……なりますよねぇ」 わたしが眉をひそめると、彼はあっさりその事実を肯定(こうてい)した。「でも結果的には、今日この代理出席を引き受けてよかったかなぁとも思ってます。こうして絢乃さんと知り合う機会にも恵まれたわけですし」 何だか嬉しそうに、彼はそう続けた。でも次の瞬間、慌てて顔の前で両手を振った。「……あっ、別に逆玉に乗れそうだからってあなたに近づいたわけじゃありませんからね⁉ 本当に打算なんて一ミリもありませんから!」「分かった分かった! そんな必死になって否定しなくても大丈夫だよ。貴方がそんな人じゃないって、見ただけで分かるもん。……ところで、わたしの名前ってママから聞いたの?」 ムキになる彼が面白くて、わたしは声を上げて笑った。そのついでに、彼がどうしてわたしの名前を知っていたのかという疑問をぶつけてみた。「はい。あと、高校二年生だということも。名門の女子校に通われていることも。……ですが、どうしてお分かりになったんですか?」「さっきママと話してるところ、チラッと見かけたから」「ああ……、そうでしたか」 疑問が解決したところで、ようやくわたしはケーキにフォークを入れた。「……美味しい。甘いもの食べるとホッとするなぁ」「本当ですねぇ」 内心ではそういう状況ではないと分かっていたけれど、ほんの少しだけの休息時間。それだけで心には少しゆとりが生まれた。「……そういえば、お父さまは大丈夫なんでしょうか」「うん、気になるよね。さっき、わたしからママにLINE送ってみたんだけど、まだ返信がないの」「そうですか……。実は社内でも以前から噂されてたんです。『会長、最近かなり痩せられたなぁ』と。社員みんなが心配していたんですが、まさかここまでお悪かったとは
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父の誕生日 PEGE7
「あの……ですね、絢乃さん。非常に申し上げにくいんですが」「はい?」「お父さまはもしかしたら、命に関わる病気をお持ちかもしれません。ですからこの際、大病院で精密検査を受けられることをお勧めしたいんですが」 あまりにも重々しい事実を突きつけられ、わたしはガツンと頭を殴られたようなショックを受けた。でも、彼が父のためを思って言ってくれていることもちゃんと分かっていた。「そうだよね。わたしもそう思う。でもね……、パパって病院嫌いなんだぁ。だからちゃんと聞いてもらえるかどうか」 わたしは二つめのケーキを食べる手を止めて、眉根にシワを寄せた。 父は昔から大の病院嫌いで、少し体調を崩したくらいでは病院に行こうとせず、いつも「これくらい、家で静養すればよくなる」とワガママを言っていた。けれど、さすがに命が脅かされるような大病の可能性がある以上、父には是が非でも検査を受けてもらわなければと思った。「でも、そんなこと言ってられないよね。ママにも協力してもらって、どうにかパパを説得してみる。桐島さん、アドバイスしてくれてありがとう」「いえ、そんな感謝されるようなことは何も……」 彼は照れくさそうに謙遜したけれど、わたしは彼に本当に感謝していた。自分の身内のことを言うなら誰にでもできるけど、お世話になっている勤め先の上役とはいえ赤の他人のことを心配してそういうアドバイスができる人はそうそういないと思ったから。     * * * * ――貢と二人、美味しいケーキを味わいながら楽しくおしゃべりをしていると、あっという間に三十分ほどが過ぎていた。 母に送信したLINEに返信があったのはそんな時だった。〈絢乃、返信が遅くなっちゃってごめんなさい! パパは寝室で休ませてます。 あなたのタイミングでいいから、閉会の挨拶よろしく。招待客のみなさんにちゃんとお詫びしておいてね〉 返信はこれだけかと思ったら、ピコンと次のフキダシが出てきた。〈あと、あなたの帰る手段として、総務課の桐島くんに家まで送ってもらうようお願いしておきました♡ 彼にもよろしく言っておいてね♪〉「…………えっ⁉」 驚いて、思わずスマホの画面を二度見した。と同時に、貢と母が何を楽しげに話していたのかが分かった気がした。「絢乃さん、どうかされました?」「ううん、別にっ!」 わたしはブンブンと彼
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父の誕生日 PEGE8
「もうすぐ八時半か……。そろそろかな」 本当なら、主役である父が帰ってしまった時点で終わらせるべきだったパーティー。予定より少し早いけれど、これくらいの時刻がちょうどいい頃合いだろうとわたしは決めた。「――桐島さん。わたしはそろそろ、ママからのミッションを果たしてくるね」「はい、行ってらっしゃい。オレンジジュースのお代わりを用意して待っています」「ありがとう」 わたしは ステージの壇上(だんじょう)に立ち、スタンドにセットされたマイクを手に持つと、わたしは深呼吸をしてからスイッチを入れて話し始めた。『――皆さま、本日は父のためにお集まり下さいまして、本当にありがとうございます。わたしは篠沢源一の娘で、絢乃と申します』 そこまではよかったけれど、次に何を言うべきかわたしは困ってしまった。どう言えば、招待客のみなさんが納得して下さるのか……。これはきっと、いずれは大企業グループをまとめていくことになるわたしへの試練だと考え、自分なりに言葉を選んでみた。『……えー、皆さまもお気づきかもしれませんが、本日の主役である父は体調を崩して早めにこの会場から引き揚げさせて頂いております。予定より早い時刻ではございますが、このパーティーはこれでお開きとさせて頂きたいと思います』 当然の結果として、会場内はざわついた。けれど、それはわたしの想定内だった。『本日ご出席下さった皆さまには、娘であるわたしが両親に成り代わりましてお礼申し上げます。と同時に、この場をお騒がせしてしまいましたことも併(あわ)せてお詫び致します。皆さま、お気をつけてお帰り下さい』 深々とお辞儀をしてから顔を上げると、目の前は招待客の皆さんの不安そうな表情で溢れかえっていた。「これでよかったのかな……」 わたしも不安に駆られながら席に戻った。将来の経営者としては致命的かもしれないけれど、元々人前に出て話すようなことが苦手だったので、自分にとって初めてのスピーチの及第点がどれくらいなのか分からなかった。 テーブルに戻ると、約束どおり貢がジュースのお代わりを用意して待っていてくれた。「絢乃さん、お疲れさまでした。喉渇いたでしょう」「うん。ありがとう」 冷たいジュースで喉を潤し、ホッと一息ついたけれど、わたしの心配ごとがこれですべてなくなったわけではない。父がとにかく心配で、早く自由(じ
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父の誕生日 PEGE9
「そういえば桐島さん、お酒飲んでなかったもんね。それもこのため?」 彼が会場で飲んでいたのはアルコール類ではなく、アイスコーヒーだった。「ええまぁ、そんなところです。僕、アルコールに弱くて。少しくらいなら飲めるんですけど」「そっか。わざわざ気を遣ってくれてありがとう。じゃあご厚意に甘えさせてもらおうかな」「はい。……僕のクルマ、軽自動車(ケイ)なんですけどよろしいですか?」「うん、大丈夫。よろしくお願いします」 自動車にまったくこだわりのないわたしは、ペコリと彼に頭を下げた。 ――それから数分後、わたしは貢が運転する小型車の助手席に収まっていた。彼は最初、後部座席を勧めてくれたのだけれど、わたしが「助手席に乗せてほしい」とお願いしたのだ。「……えっ、このクルマって桐島さんの自前なの?」「ええ、入社した時から乗ってます。でも中古なんで、あちこちガタがきてて。そろそろ新車に買い替えようかと」 そう答える貢はすごく安全運転で、そういうところからも彼の真面目さが窺えた。「新車買うの? どんな車種がいいとかはもう決まってるの?」「ええ、まぁ。父がセダンに乗ってるので、僕もそういうのがいいかなぁと思ってます。現金(キャッシュ)でというわけにはいかないので、頭金だけ貯金から出してあとはローンになるでしょうけど」「そっか……。大変だね」 新車を購入するという彼の心意気は褒(ほ)めてあげたかったけれど、サラリーマンの身でローンの返済に追われる彼のお財布事情が心配だった。「ところで絢乃さん、助手席で本当によかったんですか?」「うん。わたし、小さい頃から助手席に乗るのに憧れてたんだー♡」 満面の笑みで答えたわたし。物心ついた頃から後部座席ばかりに乗せられていたので、長年の夢が叶った瞬間だったのだ。「そうですか……。それは身に余る光栄です」「え? 何が?」 彼が小さく呟いた言葉に、わたしが首を傾げると。「絢乃さんの助手席デビューが、僕のクルマだったことが、です」 彼は誇らしげにそう答えた。
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